フェアトレードの「フェア」は何を意味するのか・・・ 悲運のグループ訪問での気付き
お店に立つときによく聞かれるこの質問。
発展途上国の商品を扱っている以上、こう聞いていただくのは当然のことです。
私はいつも「はい、フェアトレードの一環です」と答えています。
ケニアの生産に関わる取引では常に現場の相場を調査したうえで
適正価格を求めていますので、この言葉に嘘はありません。
ただし、現場にいればいるほど、「適正」という言葉の意味を考えれば考えるほど、
正直に申し上げて「適正」を定めることの難しさも感じています。
価格は、日本での販売価格を基にした利率で計算するべきなのか。
現地の相場を踏まえて、相場通りに払えば、それは適正なのか。
現場の人たちの言い値はどこまで参考になるのか。
何が「フェア」を作るのか。
フェアトレードについて考える中で、
今回訪問した協力グループの中でも特に残っている場所があります。
工房からバスで1時間半、更にバイクで20分ほど乗ったところに
バスケット作りをしている女性グループがいます。
以前、別ブログでも紹介したことがありますが、
ちょっと辛い過去を持ったグループです。
(女性グループの立派な倉庫には自慢のバスケットの絵が書いてあります)
以前はとても大きく元気だったこのグループは
ある日ヨーロッパのフェアトレード団体から
1000個ほどの大量のバスケットの注文を受けました。
その団体の男性は、グループのために
染色用のドラム缶やバスケットに縫い付けるラベルを用意し
少額の保証金を支払った後
納品日を設定して去っていきました。
時は2007年。ケニアでは大統領選挙が行われました。
選挙の結果に納得しなかった反対勢力が暴動を起こし、
2ヶ月ほどの紛争が勃発。「ケニア危機」と呼ばれる時代です。
他の理由で経営が厳しくなったのか。
詳しい理由は未だに分かりませんが、注文は一方的にキャンセルされ
女性たちの基には売り先のない大量の在庫の山だけが残りました。
この話は、随分前から同僚に聞かされていたのですが、
私自身は今回初めて、このグループを訪問しました。
2007年には元気だった女性たちもそれなりの年齢になってきています。
ゆっくりとした足取りで、少しずつミーティング場所に集まってくる間
コーディネーター役のペニーナさんという女性がせっせと倉庫を掃除し
私のための椅子を用意してくれます。
掃除してくれた倉庫の中に入ると、
そこには壁一面に並ぶ噂通りのバスケットの山。
10年の月日で埃が溜まり、湿気でカビが生えてしまっているものもあります。
バスケットに丁寧に縫い付けられた
「フェアトレード」と書かれたラベルを見ながら
悲しみと怒りが心の中で混ざりました。
その時点では、単純にこれだけの注文をしておきながら戻ってこなかったその団体が
許せず、女性たちの落胆を想像して悲しくなったのだと思っていましたが、
後日、何度もそのシーンを思い返す内に別の考えが芽生えました。
フェアトレードの仕事をすることが容易でないことは、私が身をもって知っています。
注文をキャンセルしたこと自体は、事情を知らない限り私には責められません。
便りにしていた取引先が急に倒産したのかもしれない。
それに、政治や治安の悪化は確かに、深刻です。
もしケニアで事件が起きて政府に渡航禁止令を出されてしまったら
私自身、ケニアに来ることが難しくなりますし、
自分や他の担当者の身の安全についても考え、判断しなければいけなくなります。
私がこの団体に対し「許せない」と思ってしまったのは
注文をキャンセルしたことよりも何よりも
彼女たちをもう一度訪問しなかったことなのだ、と気付きました。
ケニア危機の間は確かに難しかったかもしれない。
飛行機代だって、もちろん安くはない。
来たところで、罵倒されることは分かっている。
それでも、例え罵られることは分かっていても
ちゃんと来て謝るべきだった、と私の心は訴えます。
状況を改善できなくても、彼女たちが外国人に対して全く信頼を失ってしまう前に
もう一度、最後に彼女たちの声に耳を傾けるべきだった、
それこそがフェアトレードではないか、と。
(最近、新たな注文も増えて活気づいてきたグループ。ベテラン勢が若いメンバーを教えます)
フェアトレードの定義の中でこのような文章があります:
「フェアトレードは、対話、透明性、敬意を基盤とし、より公平な条件下で国際貿易を行うことを目指す貿易パートナーシップである」(参照:フェアトレードの定義 : フェアトレード・ラベル・ジャパン / Fairtrade Label Japan)
私は、適正価格について、「正解」を出せているかどうか分かりません。
自分たちの事業の状況を見ながら、交渉や話し合いを繰り返している状態です。
でも、価格の向こう側にある「対話」を大事にすることが
私にとって、フェアトレードの根幹にある部分だと、
今回のバスケットグループ訪問が気付かせてくれました。
2ヶ月のケニア訪問は終わり、私は一度日本に戻ります。
次に来るとき、きっとまた女性たちから色々な意見が上がるでしょう。
私が苦手な値段交渉も恐らく発生します。
そのときは、笑顔でいよう。
ちゃんとすべての話を聞き、私たちができることを全力で考え、
そのうえで正直に、対等なパートナーとして答えよう。
それが、私が今すべき、最高の「フェア」であるから。
(グループとの記念写真。何だか楽しくなってしまって思わずみんな笑顔に)