サファリに恋して in ケニア Vol.1 ~麗しき、マサイ青年の存在~
私が「ケニアのアニキ」と慕う、サファリガイドのデダンのことを以前お話ししました。それに、同僚横山くんがケニアのお勧め国立公園・保護区について紹介してくれたところで、今週から、私の体験してきたサファリについて「ほぼ連載」で思い出の一場面を綴っていこうと思います。
縁あってケニアを訪れるようになってから、決定的に私の心を揺るがしたサファリ。野生動物との出会い…もそうなのですが、デダンを通して「生のケニア」に出会い、自分がどう生きたいのかを知るに至った、その舞台がサファリだったという方がしっくりきます。
3年前、デダンが私のガイドとなった初めてのサファリ。キリマンジャロ山の麓に広がるアンボセリ国立公園を訪れたときでした。
ゾウの生息地として有名なアンボセリは、ゾウのさまざまな生態を観察できます。群れをなしてゆったりと歩く姿、湿地で水に浸かる姿、幼いゾウたちが鼻をひっかけあって遊ぶ姿。日が落ちる頃になると、家に帰るようにみな一斉に歩き出し、そのしわのよった大きな後ろ姿には哀愁さえ漂います。
そんなゾウたちを間近で見ながら、デダンが邪魔をしないよう、ゆっくりとバンを走らせようとしたところ、けたたましい雄叫びと共に、猛ダッシュでずんずんと走る1頭のゾウがいました。
走るゾウなんて見たことない。何だ何だと騒ぐうちに、怒り狂ったようなその雄のゾウは、重い体を持ち上げてなんと2本足で直立。
ゾウって立てるの!?
いや、違う?
よく見ると、何とメスのゾウにのしかかり、大自然の中でそれはそれは大胆にも愛の営み。
なんて迫力! デダン、これはすごい!
あんぐりと口を開けて驚く私の方が珍しい動物のようで、彼は笑いながら、今度はアンボセリを一望できるオブザベーションヒルをめざしつつ、水辺へと近づいていきました。
すると1頭のカバの耳が水面に。
ぎょろっと目を出したところを写真に収めようと、カメラをかざしたその向こうに、マサイ族の青年たちが歩いているのが見えました。
初めて見る、ウワサのマサイ。
そのままシャッターを切ったものの、ふと、カメラを向けてはいけないと思い、私は助手席の窓から半分乗り出していた身を引っ込め、肉眼で彼らの姿を追っていました。
片手には槍を持ち、シマウマの横を堂々と通り過ぎるその様が勇敢で、私は我慢できずにすかさずもう1枚パチリ。
すると、それに気づいたか否か、マサイの青年たちはどんどんとスピードを上げてこちらに近づいてくるではありませんか!
「写真を撮ったので怒ったのかもしれない」とデダンに言うと、彼は安心してと私をなだめ、バンを道の端に寄せ、ゆっくりとエンジンを止めました。
その間にもマサイの青年たちは、バンを追うように距離を近づけ、とうとう私の目の前に。
まずい、槍で突かれる!
年の頃16歳。
赤や紫の伝統衣装「シュカ」をまとい、髪には赤土が塗られ、ダークチョコレートのような滑らかで艶やかな肌は、息をのむほどに美しく、私は一瞬で恋に落ちたような、激しい胸の高まりを感じました。8人で肩を並べ、目の前を横切る姿に、心臓がどくどくと音を立て、ただただ目が釘づけになりました。
「成人の儀式を終えた青年たちだね。あの丘に小さな小屋が見えるでしょう。そこに向かっているんだよ。」
絶句するほどの圧倒的な美しさ。
体中にみなぎるエネルギー。
堂々たる出で立ちの中に感じる、透き通るような繊細さ。
興奮収まらぬ私は呼吸を整え、デダンになぜ彼らを追い抜かせたか理由を聞きました。
「敬意だよ。ここは彼らの土地。道を開けて彼らがすべきことの邪魔をしないようにしただけさ。」
マサイ族はケニアでも1%ほどながら、そのイメージが世界的に有名なため、公園のゲート付近ではマサイグッズを売ったり、写真を撮らせて自らを商売道具として生活する人々もいます。
そんな中、公園内を自由に歩いていたマサイの青年たち。それはこの土地が、動物だけではなく、彼らの毎日の生活の場であるということを意味します。そこに私たちが足を踏み入れさせてもらった、そう思うと、彼らに畏怖の念すら覚えたのも当然だったのかもしれません。
屈託のない青年の笑顔。美しい佇まい。
過去のボーイフレンドたちにも感じ得なかった、一瞬で私の心を奪ったあのパワー。胸を突くドキドキは、今でも色あせることなく鮮明によみがえります。
「あの丘の小さな小屋」。
遠くに見えたその場所に、足早に向かっていった青年たち。その先には何があったのだろうか。
(生産担当:マリナ)