サファリに恋して in ケニア Vol.3 ~飛んでマサイマラ!ケニアの空で見つけた人生のヒント
ちょうど誕生日を迎える7月、私はマサイマラにいました。
友人のキャンセルにより、結果的に一人旅となった初サファリ。代わりにガイドのデダンが旅の道連れとなり、そして今ではかけがえのない友人となっている。出会いは不思議なものです。
「マリナ、明日はバルーンサファリだね。きっといい思い出になるよ。楽しんでね。」
ハッ! そうだった!
バルーンサファリとは、熱気球に乗ってケニアの空を飛ぶサファリ。
どう考えてもロマンチックでダイナミック。一生に一回のサファリだと、清水の舞台から飛び降りるつもりで、自分の誕生日にこのバルーンサファリを予約していたのです。
悲しいかな、しかも二人分。
ねえ、デダン。
ビールを飲み干す彼をじっと見つめると、私の鋭い視線に気づいたか、彼は慌ててグラスをテーブルに戻しました。
デダン、デダンよ。
あなたはもう旅の道連れ。
私がももたろうなら、あなたはきびだんごを食べてしまったのよ。
オニガシマ、いや、マサイマラの空を一緒に飛ぼうじゃないか!
「そんな!申し訳ないよ。君の誕生日だよ。君がお金を払ったんだから、その分楽しんできなよ。」
そう、払ったのよ、二人分。
お金は戻らないんだし、何といっても誕生日に一人でバルーンは寂しすぎる。
よいな、デダン。飛ぶぞ、マサイマラ!
翌朝5時。
寒い。
フリースにウィンドブレーカー、マフラーをぐるぐるに巻いてもまだ寒い。
7月のマサイマラは、朝夕10度前後まで冷え込みます。
ロッジのロビーで煎れたてのコーヒーときびだんご、ではなくクッキーで小腹を満たし、まだ恐縮そうにしているデダンとバルーン乗り場へと出発しました。
夜が明ける前のマサイマラは真っ暗で、夜行性の動物の目が時々きらっと光ります。日の昇りと共に、黄金色に伸びた草とそびえ立つアカシアの木が、マサイマラの一日の始まりを告げると、キリンやインパラも活動を始めます。
バルーン乗り場では、ゴーゴーと火の音があちらこちらから聞こえ、温められた巨大な気球はみるみると膨らみ、その光景に私の期待もどんどんと膨らみました。
総勢12名を乗せた気球は、バーナーを最大にしてしばらく地を這ったかたと思うと、ふっと浮かび、ゆっくりと上空へ。
飛んだ。
飛んだ!
飛んだぞー!
マサイマラの空にはカラフルなバルーンがいくつも浮かび、見下ろすと、右手には大移動が始まる前に増えだしたヌーが群れを成して走り、左手にはかつて岩にしか見えなかったバッファローの大群が辺りの草木を覆い尽くしています。サファリバンが通る道にはくねくねと跡がつき、私もあそこにいたのだろうかと思うと、なんだか不思議な光景に思えてきました。
この広大な大地で繰り広げられるストーリーは、誰のものでもない。
生きるために狩りをするものもいれば、生きるために逃げるものもいる。
生きるために生きる。
それだけに命を懸けたものたちの姿に、人間は美しさを感じ、力強さを覚え、そしてそれは一種の強烈なメッセージを残していきます。
私たちの世は、生きるために生きられる舞台でしょうか。
働けば成果を求められ、出世を期待され、貯金が増えることを望み、道を外さないようにと一定のレールの上を知らぬ間に歩かされていたりと、どこかでだれかがそこに導いているのではないかと思うほど、ただ生きることが阻害されているようにさえ思えます。
ただ生きるために生きてはいけない、と。
何かを成さねばならない、と。
そうでないと、自分への評価も価値も見出せない、と。
毎年ヌーはサバンナを大移動するとき、マラ川の前で何時間も立ち止まるといいます。意を決して渡った跡は、土が削られ、そこに道ができ、それは彼らが生きることに命を懸けた痕跡として残ります。
行かねばならぬ理由がある。生きねばならぬ理由がある。
渡るも死、渡らぬも死。
そうだ、覚悟の決まったヌーのように生きればいい。一生懸命に存在していればいい。私はマサイマラの空で、ヌーに自分の生き方を重ねていました。
そんな揺れる思いを乗せたバルーンは無事着陸。
降り立ったサバンナのど真ん中に突如現れたレストランで、シャンパン付の朝食が待っていました。ビンボー女子にはそぐわぬ豪華さ。
でもせっかくだもの、シャンパンで乾杯!
「ハッピーバースデー、マリナ」
大きなジャンパーからチョコレートとカードを差し出すデダン。
まさかのサプライズ。
リアリー?
こんなサバンナのど真ん中、売ってないでしょ…? どこで買ったの?
あ、あの時…。
マサイマラへ行く前に、トイレ休憩によったモール。
出会って3日。凹んで泣いていた私が誕生日を迎えると知って、こっそり買っておいてくれたのだ。
このオトコ、タダモンじゃない。
誕生日にケニアの空で見つけた人生のヒント。
生きるために生きる。それは今も私の原点となっています。
<生産担当:マリナ>