ケニア国民の「足」、憧れのマタトゥデビュー





ケニアに住めば、必ず乗るものがあります。それがマタトゥ(Matatu)。

14人掛けの乗り合いバスで、ケニア国民の大切な足であり、マタトゥを乗りこなせれば立派なケニアン。

 

今ではいとも簡単にマタトゥに乗っていますが、ケニアに来て間もないころ、私にとっては憧れのマタトゥであり、早く乗りたくて仕方がない。わざわざ渋滞するナイロビをマタトゥに乗って通学したいとはもの好きだと、友人たちは笑っていました。

 

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(ナイロビ市内を走るマタトゥ)

 

マタトゥは国民の足でありながら、タイムスケジュールが決まっているわけでも、ルートが決まっているわけでも、運賃が決まっているわけでもないので、一人で乗るには少々の勇気がいります。おまけにスーパー安全でもない。

 

しかし車がない私は、これに乗れなければ徒歩圏しか移動できず、マタトゥは私にとって、絶対に一人で乗らなきゃいけない、いわばケニアンになるための大きなステップなのです。

 

ナイロビに勝手に住み始めてから2か月。

お世話になっていたホームステイ先から中心街まで約20分。渋滞というおまけがついて所要時間約1時間。

「中心街の郵便局まで行くから便利よ。」とホストマザーから聞いており、なんだそれなら見覚えのある場所だ、大丈夫、大丈夫。私は若干の余裕さえかましていました。

 

マタトゥデビュー初日。

住み込みのお手伝いさんが乗り場を教えてくれました。

 

「これに乗れば30シリング(35円程度)で行くから。じゃあね~。」

 

軽快なスワヒリ語で、多分そう言ったであろうと信じ、私は30シリングを握りしめてマタトゥのコンダクター(お金を集める人)に、郵便局に行きたいとあやしいスワヒリ語で伝えました。するとコンダクターは「郵便局には行かない。バスステーションだ」と。

 

ときすでに遅し。マタトゥは走り出しました。

 

バスステーション…。

 

中心街であることは間違いありませんが、イマイチ分からない。

そして私の記憶が正しければ、外国人が一人で歩くには心地よい場所ではなかったような…。

 

そんな私の一抹の不安をよそに、どんどんと人が乗車し、近くに見えてきた中心街のビル群とは逆方向にハンドルを切るドライバー。握りしめた30シリングに汗がにじみ出しました。

 

「マタトゥでは携帯電話は出さないこと。スリがいるかもしれないから。」

ホストマザーから警告を受けていたものの、このまま分からないところに行ってしまうかもしれない方が心配で、こそっとケータイを取り出し、いざバスステーションに着いたら待っていてもらおうと、中心街で働く友人に助けを求めました。「このマタトゥでいいの…??」

 

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(ナイロビ名物、渋滞)

 

「大丈夫だよ。終点までおいで。」

 

どうやら乗っているマタトゥは間違いないようでした。私はホッとして、いすの背もたれにぐっと体をうずめました。

 

渋滞で立ち往生するマタトゥの壊れかけた窓には、午後の強い日差しが差し込み、私の左ほほをじりじりと照りつけます。30シリングを握りしめていた手は緩み、手のひらにはコインの跡。市内を流れる川で水浴びをしている人を見ながら、私は終点に着くのを待っていました。

 

「ベバ!ベバ!(スワヒリ語で「運ぶ」)」

 

コンダクターは、マタトゥが止まりきる前に身を乗り出しながらドアを開け、降りて呼び込みをすると、再度走り出すマタトゥに颯爽と飛び乗ります。この一連のこなれた動作が妙にかっこよく、運賃の回収方法も、まずは集めてその後にお釣りを分配。誰にいくら渡すかちゃんと頭に入っている、その様子はお見事。

 

細かいルールがないから「ここで降りたい」と言えば、半ばタクシーのように降ろしてくれますが、運賃はラッシュアワーや雨が降ると割増しされ、渋滞具合で通る道が変わります。マタトゥの大きさに対して大人14人が乗るには狭く、窓側の席から私を越えて降りていくアフリカンママの大きなおしりが目の前を横切り、となりのアフリカンパパの太ももは半分私の上に乗っています。

 

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(車内はかなり狭い)

 

終点。

 

思った通り、バスステーションはバスと人でごった返しており、私はバッグをギュッと抱え直し、バスステーション沿いの大通りを足早に渡りました。

 

この通りを境に雰囲気が変わります。これがナイロビ。危険度を察知するセンサーを持つことが大事。見慣れたランドマークを目印に歩いていくと、そこには歩き慣れたいつもの中心街がありました。

 

緊張ですくんでいた肩を下ろしたとき、心配していた友人から電話が。

彼は私がバスステーションから一人で歩いて来られたことに驚きながらも、私のマタトゥデビューを喜んでくれました。「これで君も、立派なナイロビアンだね」と。

 

憧れのマタトゥはいつの間にか当たり前のマタトゥとなり、私の足としても活躍してくれています。

 

(生産担当:マリナ)