ケニアの結婚観~同性愛と一夫多妻、キリスト教はどっちの味方?





「マリ~ナ~、ナイロビは欧米化されすぎてるんだよ。ファッションもしゃべり方も。同性愛者だっているじゃあないか。あ~、僕は分からないよ~」

 

ある昼下がり、ナイロビ市内のカフェで友人デイビッドとお茶をしていたときのことでした。彼はマンゴージュースをすすり、ナイロビの若者を目で追いながら、ため息まじりに話をしていました。

 

先日、アメリカ全州において同性婚が認められ、世界中で話題になっています。

ソーシャルネットワーク上では、多様性を象徴するレインボーカラーで写真を彩る人が増え、巷ではレインボーケーキが登場したりなど、セクシュアルマイノリティーを取り巻く社会的課題において、ひとつの進展になりました。

 

ケニアでは7月後半、オバマ大統領のケニア訪問を控え、同氏に対して同性愛に関する発言を控えるよう呼びかけるグループがデモを行うなど、タイムリーなトピックにやや繊細になっています。

 

オバマ氏は動じない様子で、訪問時には同性愛について触れるとコメント。価値観の違いが顕著に表れ、ケニア国内、火花が散りそうです。

 

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(出典:『Daily Nation』(7/9/2015))

 

さかのぼって2014年1月。

ケニアの著名な作家ビニャヴァンガ・ワイナイナ氏(Binyavanga Wainaina)がゲイであることをカミングアウトして話題になり、ナイロビにもゲイ専門(とは書いていないが)のクラブや集まりがあるとのことで、私はケニアの新宿2丁目事情にやたら関心を持っていました。

 

「僕はなぜ同性を好きになるのか分からないんだよ。だって異性を好きになるように育てられてるのにおかしいじゃないか…。」

 

デイビッドは同性愛者への理解に苦しんでいるようで、アメリカや日本で口にしたら責められまくるようなことを、悪気なくさらっと言います。彼の価値観からは、本当に不思議でたまらないといった様子で。

 

お隣りウガンダでは、同年2月に同性愛を禁ずる法律が成立。しかも一部終身刑という非常に重い罪の扱い(後に議会審議で必要な定足数なしに採決されたとの理由で無効)で、国内外の人権団体からも非難の声が出ていました。当時ケニアでも話題になり、新聞の投稿では賛否両論が繰り広げられ、人々は強い関心を示していました。

 

アメリカを始め、多くの欧米諸国も肯定の傾向がある中で、アフリカは同性愛に対しては大変厳しい姿勢をとっています。

 

「アフリカの価値観とかけ離れている」「キリスト教精神に反する」などの声が多数聞こえ、数年前にはケニア前大統領が同性愛者を逮捕すると言ったこともあったそうです。そのくらい、同性愛に対する非難は多くあります。

 

一方、同性愛は違法でも、一夫多妻に違法性がない国はアフリカでも多く、ケニアもそのひとつですが、昨年、慣習として成立していた一夫多妻制が成文化され、夫が結婚できる妻の数に上限がないこと、妻には拒否権がないことが議論となり、女性議員からは反発と共に、妻が法的に守られるということで賛成する議員もいるといいます。

 

第二の妻をもらおうとする夫に「裏切られた」思いをした第一妻の話や、正式な妻であろうとなかろうとどうせオトコは浮気すると、冷ややかに見ている女性も。

 

一夫多妻を好むかどうかは別にして、妻が複数いたからといって、それほど珍しいことでもないのでしょう。

 

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ビニャヴァンガ・ワイナイナ氏。

出典:The New Yorker Binyavanga Wainaina Comes Out - The New Yorker

 

2杯目のマンゴージュースをおいしそうに飲み干すデイビッドに聞いてみました。

 

「一夫多妻OKだけど、あなたは第二の妻を持とうとは思わない?」

「うーん、思わないな~。だってキリスト教精神と合わないからね」。

 

出た、ジーザス。

 

ケニアはイギリスの植民地の影響により、かなりキリスト教が染み込んでいます。国民の83%がキリスト教日本貿易振興機構JETRO)2015年1月15日付)であり、教会では生演奏をバックにゴッドを称賛し、乗り合いバスにはアイラブジーザスのステッカーが張られたり、ミーティング開始時には祈りを捧げたりします。

 

植民地下されるまで「アフリカのもの」ではなかったキリスト教が、今では「アフリカン」であることの重要な要素となっていて、部族の伝統や考え方を大切にする一方で、皮肉にも、キリスト教なしではアフリカ精神を語れないところまで来ています。

 

アフリカは同性愛者が生きにくい国であることは間違いありませんが、実はウガンダは、女性がひざ上のスカートをはくことまで禁止すると言い出したそうな。女性が公の場でにゅうにゅうと足を出す、これも欧米の悪い影響だ、と。

 

新聞の投稿欄にこんな意見がありました。

 

「以前アフリカは布1枚しかまとわずほとんど裸だったのに、西洋人が来て洋服を着るようになった。それを、ミニスカートは西洋の悪い価値観の押しつけだとして禁じるなんて、『アフリカンであること』って一体何なのよ」。

 

(生産担当:マリナ)