ケニアの食卓から~キャッサバとお酒に潜む毒?
タピオカの原料であるキャッサバ。
豊富なでんぷん質と比較的どこでも育つことから、世界第3位の主食としてたくさんの人のお腹に収まる定番のお芋。
8年前、沿岸部モンバサの道端で、おじさんが素揚げしたキャッサバにチリパウダーをふり、ライムをきゅーっと絞って売っていました。
気温は30度前後。強い日差しの下でかぶりついたそれは、海風の心地よさもおまけして、格段においしかったことを今でもよく覚えています。
だからまさかキャッサバに毒性があるなんて知りもしなかったし、想像もしなかった…ので、私は豪快に生のまますりおろし、そのでんぷん質を利用して、ルンルン気分で「お好み焼き風」を作り、うまいうまいとビール片手に食べていました。
しかしその後、何となく第6感が働き、キャッサバの正体を知るべくインターネットで調べたところ、毒性(シアン化合物)があるとの情報が。
何とこのシアン化合物、人体に有害で少量でも死に至ると。
ドキッ。
さまざまな情報に右往左往し、どうやらケニアで食されるキャッサバは簡単な処理でよい「らしい」ことだけは分かったものの、具体的な処理方法も、食べてしまった時の対処法も見当たりません。
どうする次の日死んでたら!
困った私は、友人デイビッドにすぐに電話をしました。
「マンボ~、どうしたの?」
どうやら地元のパブで飲んでいるらしい。
「ねえ、キャッサバって家で食べる?」
「う~ん、しばらく食べてないけど、昔は村で食べてたよ。皮むいてゆでて、芯をとって。」
なぬ? 芯をとる?
「さっきキャッサバを料理してたんだけど、毒があるって知らずにそのまますりおろしちゃったんだけど…」
「え? 全部食べたの?」
「いやちょっとだけど、あの、その、3㎝くらいかな…。」
彼によれば、キャッサバの芯を取り除くのは、村生活でおじいさんがやっていたから当たり前だったとのこと。キャッサバデビューがつい最近という私は、当然そんなことを知るわけはなく、話を聞きながら不安だけが募っていきました。
「まあ、少ししか食べていないなら大丈夫だと思うよ。気分悪かったりお腹こわしたりしていないでしょ? 今度どうやって調理するか見せてあげるね。じゃ、僕、飲んでるから、まったね~。」
ここはキャッサバを食してきた人の楽観性を信じるしかない。
それにそんなに慎重にならないとダメな食べ物だったら、こんなに普及していないはずだよね??
私は自分に言い聞かせながらも不安と共に眠りについたのでした。
翌朝。
「マリーナ… 君は生きてるね…。僕は死にそうだよ、体中が痛くて歩くのも辛い…。病院行ってくる…。」
昨晩のほろ酔い調とは打って変わった、か弱いデイビッドの電話で目が覚めた私は、痛くもかゆくもなく、元気ピンピンでキャッサバ事件は無事終幕。
しかしデイビッドの息づかいは明らかに苦しそうで、今度は私が心配する番となりました。
検査の結果、これといった病名もなく、薬も処方されなかったようですが、お医者さん曰く、どうやら昨晩のお酒が「偽物」だったのだろうと。
これか。
新聞でも目にする、偽物のお酒。
「偽物」とは、例えば工業用のアルコールを使って度数をあげ「安くて酔える」お酒を勝手に作ったり、拾ったホンモノのボトルにニセ酒を入れて売っているようなもので、これで命を落としている人がいるのです。
手が込んでいるものは、品質を保証する「KEBS(ケニア基準局)」マークを不正にコピーして作っているものもあるといい、デイビッドは昨日、恐らくこの類のお酒を知らずに飲んでいたと思われ、体調を崩したようでした。
(ケニアの製品には大概「KEBS」マークがある)
通常レストラン等でお酒を注文すると、お客さんの目の前で栓を抜きます。
何も混入していないという証。
顔見知りの地元のパブで飲んでいたというから、お店も不正製造のお酒とは知らなかったかもしれないと言います。
何より、まさかニセモノとも思わず飲んでしまうのが人間。
お酒をたしなむ(←きれいな表現)わたくしにとっても、重要なモンダイでありますの。
体中の痛みと闘いながらも、傲慢なボスの下で働くデイビッドは仕事を休めず、顧客送迎のために私の家の近所まで来たついでに立ち寄ってくれました。
その姿は何だかいつもより小さく見え、目は半開きで足を上げるのも辛いという痛々しい姿。それでも朝の電話の時よりは良くなったようでした。
「はあ…。こんなことならもうお酒は飲まないよ。今度からはビールにする。」
懲りたのか懲りてないのかよく分からない宣言だが、ともかく少しずつ回復に向かってはいるようで、私はお見舞いに、風邪をひいた時用に持ってきたスポーツ飲料をあげました。
「で、マリーナは大丈夫なの、キャッサバ?」
「特に何にもなかったよ。不安だったけどね。」
デイビッドは私の肩に手を置き、秘密を打ち明けるかのように言いました。
「実は…心配させるから昨日は言わなかったけど、キャッサバをそのまま食べたって聞いてヤバイと思ったんだ。まあ、でももう安心だ。今度からは真ん中の芯は取るんだよ。」
芯のある人はステキだけど、芯のない方がいいものもあるんだな。
(キャッサバのフライ。安心の芯抜き。)
私はキャッサバ、彼はニセ酒。
とんだ不運に見舞われた週明け。
おし、調理の仕方が分かったからには、残りのぶっといキャッサバを食べるっきゃない。デイビッドの体調が良くなったら、キャッサバとビールで快気祝いでもしようっと。
(生産担当:マリナ)
※キャッサバには毒性の高い苦味種と、毒抜きをして食用にする甘味種があるそうです。