「競争」か「共同」か?ケニア農村部の女性たちの場合





今日はアメリカ大統領選挙の日。

世界の政治、経済にも大きく影響するこの選挙の結果を待ちながら

朝から気持ちがソワソワ。

もちろん、そんな私にはおかまいなくケニアの工房は通常運転で動いています。

 

そこで、今日はせっかくなので(?)

ケニア農村部の女性たちの「競争」をテーマにお話ししたいと思います。

 

以前もお話したことですが、農村部の女性たちが何か活動を始める際、

「女性グループ」という団体を作ります。

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(女性グループのミーティング風景)

 

日本の感覚で言うと、サークルに少し似ているかもしれません。

非公式なグループが多いですが、正式にグループとして政府に登録すると

銀行口座を持ったり、ローンを組んだりすることが可能になる制度です。

 

アンバーアワーが誇るサイザル織り糸は全て女性グループによる手作り品。

ナイフで丁寧に抽出したサイザルの葉の繊維を、

手と太ももを使って丁寧に撚りますが、

どちらの作業も重労働。

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(サイザルの葉を割いて繊維を取り出す作業。かなり力のいる作業です!)

 

彼女たちのモチベーションを上げ、仕事を労う意味も込めて

今年の初めまで「プレゼント制度」を設けていました。

 

3ヵ月毎に糸の作り手達の作成キロ数を集計し、

最も糸を作ってくれた女性から順番にランキングを作り

ランキングの順位によって、布、たらい、お皿、スプーン、等

生活用品をプレゼントしていました。

 

ランキング発表の際は「○○さんが今回1位だったから、次は頑張ろう!」と伝え、

お互いに切磋琢磨してもらいたい、というのが当初の願いでした。

 

ところが・・・

制度を導入してからしばらくして気付いたのですが、

そもそもランキング上位者がいつも同じ名前。

しかも、それまで頑張っていた人たちが段々と糸を作らなくなってしまったのです。

 

工房スタッフがミーティングを開き話し合った結果

プレゼント制度は返ってみんなのモチベーションを下げるという結論に至り

制度をやめるか、全員にギフトを上げるかどちらかにした方が良いと

アドバイスをもらいました。

 

話を聞いてみると、納得する情報をいくつか得ることができました。

 

そもそも、織り糸作りは農家の女性たちの副業で、

農業や子育ての合間をぬって作ってもらっています。

 

 

子供がたくさんいる家庭、子供がまだ幼い家庭では糸作りに専念する時間が少ない。

兄弟が多い家族は畑仕事の人手があるから早く終わるが、

事情があって人手の少ない畑では畑仕事だけで手いっぱいの女性も。

そんな中でも時間を割いて、量は少なくても糸を作っているのに

結局、得するのは時間のある人ばかりだ。

どうせ私は頑張ってもプレゼントはもらえないんだから、

だったら頑張らないで辞めてしまおう、という考え。

 

また、やはり手仕事である以上、向き不向きも生じます。

どうやら一部グループでは、上手な人たちは他に追い付かれることを恐れて

下手な人に上手くなるコツを教えるのを渋っていたそうなのです。  

 

更に、作り手の年齢は20代から70代までと幅が広い。

若い世代は「お年寄りは時間がたっぷりあるし、技術もあるからずるい」と言い

上の世代は「若い人たちの方がスタミナがあるから作り続けられる」と言う。

ここでも、意見の相違が・・・  

 

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(この方々は皆60代。仲良く糸を撚っています)

 

これでは本末転倒。

今思えば、こうした問題の可能性は想定できたのかもしれませんが、

制度導入当初には思いつかない状況でした。

 

制度自体にも公平性に問題があることを認め、

スタッフのアドバイス通り、プレゼント制度を廃止しました。

ただし、今度は多く作っている人たちががっかりしないように、

量が多い人が得する価格制度に変更し、

ほとんどのグループはそれで納得してくれました。

 

ところが・・・

一度始めた制度、特にプレゼントが関わる制度を廃止するのはやはり難しい・・

 

「私が毎年もらっていたタライはどこ?」

「頑張ってない人たちの言い訳聞いてたって成長しないわよ。

せっかく良い競争ができてたのに、どうして止めるの?」

と、今までプレゼント制度で潤っていた人たちからのクレームが寄せられます。

 

その反面、プレゼント制度が無くなって協和性が増して、

成績が上がっているグループも・・・

 

日本の教育の現場でも、「競争」と「共同」のどちらが良いのかと議論になりますが

なるほど、本当に正解が出ません。

 

競争で伸びる人もいれば、競争で埋もれてしまう人もいる。

努力していない人もいるけれど、努力するのに限界を感じている人もいる。

全員を満足させることができなても、

より多くの人と協力しあえるにはどんな制度が正しいのか・・・

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(仲が良いグループはこんな素敵な笑顔を見せてくれます!)

 

絶対的な正解がないこの問題には、この仕事を続ける限り悩まされそうです。