一番弟子の苦労と成長





製品の加工にはミシン処理が必要で、またどうしたらデザイン性のある加工ができるか、それを模索してくださったのが、革職人の小椋さん。

サイザルはしなやかさと丈夫さが特徴ですが、布のように直線に縫うことは難しく、熟練者の小椋さんの工夫で、何とか形になってきました。

 

期間限定でお手伝いに来てくださった彼の後を継ぐべく、抜擢されたのが、工房スタッフ唯一のミシン経験者、ワンザ。

 

彼女には小椋さんの一番弟子として、短期間でできる限りの技術を学んでもらうよう、最後の1か月は彼に張りついて仕事をしてもらいました。

 

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とはいえ、小椋さんは英語をほとんどお話しにならず、単語を並べようにも言葉が出てきません。まずはやってみせて、それをワンザが試してみる。その繰り返し。

知っている言葉しか出てこないから、ちょっと違うと思わず「ノー!ノー!」と言ってしまう。本当は「NO」ではなくて、違うことを伝えたいのに、気がつけば否定ばかり。

 

ワンザにしてみれば、指導されている内容もよく分からないまま、そしてなぜ「NO」なのかもよく分からず、でも否定された気持ちだけは残り、ときには涙ぐんで作業をすることもあったと言います。

 

「申し訳なかったなあ。もう少しいられれば、もっと伝えることができたのに…。」

 

帰国の前日、小椋さんがぽろっとつぶやきました。

 

そんな小椋さんの悔いとは裏腹に、ワンザの飛躍的な技術向上は、だれもが目を見張るものでした。言葉では説明しきれない微妙なバランスや、次の工程を考えて行うひと手間の意味。そこまで彼女は感じ取りながら、工程とポイントを習得していました。

 

ここまで彼女が自信をつけたのは、小椋さんの「職人魂」。

それくらい見逃しても…と思うような小さなことも、ていねいにやり直す。

それはただの「こだわり」ではなく、そうすることに意味があるから。

 

昨今、家庭でも会社でも「親や上司の背中を見て育つのは古い。もっとコミュニケーションを!」という風潮がありますが、言葉以上に語るものは確実にあって、姿勢や態度、そして真剣なまなざしほど人を動かすものはないんだなと感じました。

 

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言葉の壁が功を奏し、師匠の背中しか見られなかったワンザ。

とある日、私がミシンを使って加工の練習をしていると、

 

「マリーナ!ノー、ノー!」

 

今や小椋さんと同じタイミングで私のミスを指摘します。

そして彼女の一番弟子である私のことを真剣に指導してくれる姿も、小椋さんからしっかり受け継がれ、私にもステキな師匠ができました。

 

(生産担当:マリナ)