流した涙はムダじゃなかった
鶴の恩返し方式の機織りトレーニングが始まって1か月半。
工房の美しい鶴たち、織り子さんの上達も早く、この1か月、とにかくブックカバーのデザインを確定するために、工房では来る日も来る日も織り続けていました。
試行錯誤して決まったデザインは4つ。サンプルを日本に送るために、タイトスケジュールの中、作業を進めていました。
(ブックカバーのデザイン。ここまでくるのにたくさん織った。)
ところがシッピング前日、加工の処理が上手くなった担当ワンザが痛恨のミス。
ステッチが縫い目から外れてしまい、それを直したいけど、針の跡が残る。でも穴開きは商品にできない。
もう一度やり直そう。ワンザも納得し、新しい織りの上がりを待っていました。
その織り担当がナンシー。
「この織り機は問題だらけよ、固くて動きが悪い。」
ガシガシと筬(おさ)を動かしながら、何やら織り機と闘っている彼女の様子を見ると、なんと、指定の筬のサイズより小さいものを使っていました。
ナンシー、そりゃあ、織れないよ。
この筬のサイズに、私たちが普段使用するサイザル糸を通すと、それはそれはきつくて、筬の動きが悪くなります。なのにナンシー、自身の点検ミスは棚に上げ、織り機に文句を言いながら、力づくで間違ったまま織り上げてしまいました。
がーん。。。終業間際に発覚した重大ミス。
これを一から直したら、丸一日かかります。
おまけにナンシー、明日は用事があるから休む、で、織った部分だけ切り取り、バイバイと先に帰ってしまいました。
ナンシー…、そんなの…なんしー…。
ぽつんと一人工房に残され、どうにか修正できないかと織りにとりかかるも、時計は夕方6時半を回り、電気のない工房では日が落ちると作業ができません。
こんな時、一緒に悩んで、一緒に作業しながら解決方法を考えられる人がいたら…。
心弱い私は、トボトボと帰路につき、絶対に守りたい期日とミスの前に確認しきれなかった自分への反省の気持ちに挟まれ、しくしくと涙があふれてきました。
翌日。
織りリーダーのジェーンに状況を伝え、急きょ新しく1枚織ってもらいました。スイッチの入ったジェーンの織りのスピードは圧倒的で、かつノーミス。
待ち構えていたワンザがすぐに加工に入り、納得いかない部分はやり直しながら、ランチも取らずにやり終えてくれました。
ナンシーのミスをジェーンがカバーし、ワンザは自分のミスを自分で取り返す。
そうか、チームワークだったな…。
(工房はこのチームで毎日製品づくりに励む。心強い仲間たち。)
私一人で抱え込む必要はありませんでした。
一緒に作業をしながら、難しさを共有し、どうしたらよくなるのか考え、試してみる、その過程の中で、私はもっとスタッフを信頼してよかったはずでした。
言語による相互理解に限度があるため、こちらの意図が伝わっていないかも…と、ミスがある度に、その意識の差をどう埋めたらいいのか悩んでいましたが、それも少しずつ歩み寄っているんだなと感じ、流した悔し涙はムダじゃなかったと、今度はうれし涙で目頭を熱くしたのでした。
(生産担当:マリナ)