ニコハパおじさんの妄想





アンバーアワーのケニア工房の隣には、金属加工の工房があります。

「メタルのことなら俺に聞け」というオトコたちが、手を真っ黒にし、電ノコをウィンウィンいわせ、火花を散らしながらあらゆるものを作っています。

 

発電機が壊れたときも、このメタル工房のおじさんが故障の原因を突き止めてくれ、困っていたところを助けてくれました。

 

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そんなある日。

 

一仕事終えてホッとしていたら、今度は支払い交渉がうまくいかなかったり、サイザル素材の不足で織りスタッフから不満が出たりして、あっちバタバタこっちバタバタ。私は工房を出て、ため息まじりにぼーっとしていました。

 

すると後ろからおじさんが声をかけてきました。

故障した発電機を見てくれた、メタル工房のおじさん。

 

「どうだい、仕事は?」

「うーん、いろいろと問題があってね…」

 

と言うと、私の肩に手を置き、

 

「大丈夫。問題があれば助け合えばいい。俺はここにいるよ」と。

 

ここにいる。

スワヒリ語で、「ニコ ハパ」。

 

その言葉だけで、ふっと気持ちが軽くなりました。

何も問題が解決するわけではないのに、何よりも温かく、信用できる言葉に思えました。

 

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ところがこのニコハパおじさん、ここのところ、私が一人になるのを見計らっては、「ランチに行こう、ケニアを案内しよう」とやたら誘ってくるようになり、私は「いつかね」と言いながら、うまいこと紛らわしていました。

 

先日、おじさんはまた居残りの私を見つけ、声をかけてきました。

 

「考えてくれた? 僕が君を愛していることはどう思うんだい? 君のボーイフレンドになりたいんだ。ケニア人と日本人だって愛し合えるじゃないか?」

 

おじさん、勝手に話が進み過ぎてる。

 

私はその自由すぎる妄想におかしさを覚えながらも、曖昧じゃダメだなと思い、おじさんを傷つけないよう断ろうとしました。

 

「おじさん、あの…、私はそんなつもりは…」

聞こえたか聞こえないか、私の言葉なんぞそっちのけで、おじさんは続けました。

 

「日本に帰って戻ってくるときは、『いいもの』を持って帰ってきてくれ。」

「え?『いいもの』?」

 

日本から多少高価なものでも買ってきてくれると思ったのでしょうか。

おじさんは不思議そうな私の表情を見ながら、「だってケニア人と日本人は愛し合えるんだろう? 俺にも一人、美人を連れてきてくれよ。」

 

なんだい、おじさん、だれでもいいんかい!

 

何を妄想したか、おじさんはうれしそうに笑みを浮かべ、ダウリー(結婚持参金)はいくらかかるのか聞いてきました。

 

「日本では特に必要ないわよ。」

「いらないの? タダなの? じゃあ話は早いぜ。君でもいいけど。」

 

だから君でもって…。もう…なんなの…。

 

イマイチおじさんの意図がよく分からないまま、傷つけないようにと優しく振る舞おうとした私は、夕暮れの工房で、何だかフラれたような気分になりながら、おじさんの背中を見送ったのでした。

 

(生産担当:マリナ)