あれは幻…? ケニア工房の助っ人、未来の警察に
前々回のブログで、ケニア工房に助っ人マステキがやってきたことをお話しました。
聡明で仕事の早い彼を右腕に、工房の作業もぐんぐん進み、私のストレスも解消されると、ウハウハしていたところでした。
んが、衝撃の出来事が。
それは彼が工房にかかわり始めた週の土曜日のことでした。
「これからモンバサに行ってくる。月曜日に警察の入隊試験があるって知ったんだ。受かっても準備期間で3か月はマチャコスにいるから大丈夫。」
夜行バスに飛び乗り、彼は慌ただしく沿岸部モンバサへと向かい、更にバスに乗り継ぎ、彼の育ったタナ川デルタへ。
警察のリクルートはニュースでも話題になるほど、生涯安定した仕事として職を求める多くの若者が詰めかけました。
(ケニアを半分縦断する距離)
「マリナ! 受かったよ!でも9か月のトレーニングのために、水曜日にニェリに行かないといけない。」
ニェリにはケニア警察大学があり、首都ナイロビからバスで約3時間、マチャコスからなら約5時間、モンバサからなら…丸1日!
喜びと共に、あまりに急な出来事で、私は電話越しに言葉が出ず、代わりに出てきたのは涙でした。
何でも話せる友人がいなくなってしまう寂しさ、せっかく工房で一緒に働いてくれることになったのに、また一人になってしまう荷の重さ。気分転換にとトゥクトゥクで連れ出してくれる人も、仕事の相談をできる人もいなくなってしまう…。
思い切って、工房のフルタイムポジションもオファーしました。もしかしたら留まってくれるかもしれない、と。
「気持ちはありがたい。本当にうれしい。でもね、入隊試験は5度目の挑戦なんだ。初めて受かったんだよ。これは逃せない。」
そうだったんだ…。
彼にとっては警察になることが職の安定であると共に、夢でもあったことを知り、若き有能な彼を羽ばたかせないわけにはいかないと、私も泣くのをやめ、心から応援することにしました。
「マリナ、お願いがあるんだ。入隊するには持ち物が必要でマチャコスに着いたら買い物をしたい。リストを送るから、スーパーで確認してくれないかな?」
マチャコスのベストフレンドの頼みだ、合点承知、リストを送ってくれ。
「ベッドのマットレス、毛布2枚、枕、シーツ、靴、アイロンでしょ、それから…」
「マットレス? そんなの持ってくの? どうやって持ってくの??」
「だって持っていかないと、入隊資格取り消しになっちゃうんだよ。あ、あと草刈り機。」
草刈り機??
警察になるんだよね? 農家じゃないよ…ね?
とにかく時間がない。
私はリストを持ってスーパーで適当なものを見繕ってもらい、買い足りないものは途中下車のナイロビでそろえることにし、マステキがモンバサから到着するのを待ちました。
・・・遅い。来ない。
「ごめんごめん、頭剃ってきた。身も心も清めないとね。」
出家か!
とにかく急いで持てるものだけ持ち、子守りで見送れない彼の妻に代わり、私がナイロビまで同行し、大きな荷物を抱えてニェリ行きのバス停へ。
まるで家出(あ、そうだ、「出家」したんだ)。
その出家男子は、去り際に貝のネックレスをくれました。
モンバサの海岸の波の音が聞こえてきそうなそれを、私の首にかけ、ぎゅっと手を握りしめて言いました。「9か月したら戻ってくる。警察になったら家族も君も守れるから」と。
9か月後、私がここケニアにいるかどうかは未知数。もしかしたら、あの握手が最後になるかも分からない。
でも、出会えて、友情を築けたことは財産。
大きな体を小さく丸めてバスに乗り込む姿に、息子を送り出すような気持ちでした。
バタバタでニェリに到着したマステキは、無事入隊を果たし、目下トレーニング中。
なのに、何かあれば遠隔からすぐに手助けをしてくれる。
どこまでもマステキらしい、その行動の速さとかゆいところに手が届くおもてなしぶりに、ケニアの安全を守る頼もしい警察になって帰ってくることを願っています。
(生産担当:マリナ)