肝の据わった遅刻事件
その日は、何となく朝からせわしない感じがしていました。
前日に素材の支払いでもめたこともあり、気持ちはやや疲れていました。
朝8時。
出勤時間を過ぎて間もないころ、一人のスタッフから遅れるとのメール。
9時から地元のグループを訪問する予定だったため、確認をとってもらい、彼の返信を待っていました。
9時45分。
すでに訪問時間を過ぎているのに、まったく連絡が来る気配がない。
電話をすると、どうやら訪問はキャンセルになり、11時半には工房へ到着するとのこと。
8時出勤が11時半になるというのに理由も言わず、私は何だか悪い予感を抱えながら、予定されていたミーティングに参加。彼が工房に来たらきちんと話そうと、彼の出勤を待つことにしました。
ミーティングを終えた私は、工房に戻ってビックリ。
いるはずの彼が、まだいない。時は午後1時なり。
茫然とする私と同僚。
理由なしに大幅遅刻、これは困る。
(スタッフミーティングで生産性や質について議論)
「やあやあ、マリーナ。今来たよ~。」
30分後、長靴を履き、手ぶらで工房のドアをくぐってきた遅刻の張本人は、余裕の笑顔。
プチッ。
滅多に怒りを見せない私の堪忍袋の緒は軽く切れました。
「どうしたの? もう1時半だよ。何があったの?」
熱い感情があふれてくるのを感じながら、それでもトーンを抑え、まずは彼の話を聞こうと冷静でいるようにしました。
すると彼は、「心配しないで大丈夫、大丈夫、悪いことが起きたわけじゃないから~。」
ブチッ!!
なんだって?? 大丈夫じゃないよ!!!
遅刻に寛容な風土とは言え、朝8時出勤が、「遅れる」の一言だけで5時間遅刻はいくらなんでもワケが違う…。
この2週間、遅刻をなくして工房の生産性を上げていこうと、スタッフミーティングで議論してきた矢先のこと。怒りよりも、それがショックでした。
伝わってなかったのか…。
あの時のモチベーションの高まりは、私の勝手な思い込みだったのか…。
「申し訳ないけど、あと3時間の就業では1日分も払えないよ。遅刻の理由も来るかどうかも分からないまま連絡がないと、工房全体が困るのよ。」
私の表情に本気具合を見たのか、本人も反省気味でした。
そして帰り際、「マリーナ、今日の分のお給料をもらえなくても僕は君を非難しないから、心配しないでね。」
当たり前だよ…。
どこまでも肝が据わり、どこまでも筒抜けるような、この悪気のなさに妙に感心しつつも、ぐったりと疲れて帰宅。山に沈みゆく燃えるような夕日に我が心情を馳せながら、冷えたビールに救いを求めた夜でした。
(生産担当:マリナ)