「品質」をめぐる葛藤 ~加工編~
私たちの工房がある街、マチャコスの小さな靴屋さんに、ジョセフという職人がいます。暗い部屋で、古いミシンを使い、灯油で温めた七輪のようなもので靴の底をかたどりながら、立派な革靴を作っています。
アンバーアワーの製品は、本来良質な革を使って加工をしたいのですが、ケニアではなかなか納得のいく革が手に入らず、今は合皮を使って加工に取り組んでいます。その一部をお願いしているのが、このジョセフ。
サイザルマットの縁取り加工のため、50枚ほど仕事を依頼していました。
(小さなスペースで黙々と靴をつくるジョセフ)
約束の納品日。
革職人の小椋さんと製品チェックをしに、小さな靴屋さんを訪れました。
おー、これは!
50枚中、約3分の1が「失敗」。
縫い目が曲がり、合皮部分をはみ出てサイザルだけを縫っていたり、両サイドでステッチの目が表裏反対だったり、返し縫いの意味をなさないほどにズレていたり。
ミシンを扱う技術は確かで、経験で身につけた感覚でズンズンと縫えてしまう彼にとっては、こんな細かいところを指摘されるのは初めてのようでした。
日本では、職人でなくとも「まっすぐ」とか「きちんと」みたいな感覚がどうも染み込んでいるようで、まっすぐといえばビシッときれいな直線。それに美しさを感じたりします。
しかしケニアでは、多少ジグザグでも縫い目がズレていても別に構わなくて、それはそれで、この土地では問題なく機能したりします。
とはいえ、販売は日本。
「まっすぐ縫う」「はみでない」ということが重要であることも、彼に理解してもらわねばなりません。
これは日本の価値観の押しつけなのかな…。いや、「いいモノをつくる」という思いは世界共通だよな…。そう、これも使い手を思う心づかいなんだよね。
1週間後、ジョセフは少し緊張した面持ちで、やり直しとなったマットを見せてくれました。
きれい。申し分なし。
めったに笑顔を見せないシャイな彼も、ホッとしたような表情を浮かべました。
これならブックカバーもお願いできる。
しかしこれまた、私たちがホッとできないことが起ころうとは露知らず…。(つづく)
(生産担当:マリナ)