「品質」をめぐる葛藤 ~加工編~





私たちの工房がある街、マチャコスの小さな靴屋さんに、ジョセフという職人がいます。暗い部屋で、古いミシンを使い、灯油で温めた七輪のようなもので靴の底をかたどりながら、立派な革靴を作っています。

 

アンバーアワーの製品は、本来良質な革を使って加工をしたいのですが、ケニアではなかなか納得のいく革が手に入らず、今は合皮を使って加工に取り組んでいます。その一部をお願いしているのが、このジョセフ。

サイザルマットの縁取り加工のため、50枚ほど仕事を依頼していました。

 

f:id:amberhour:20141024125910p:plain

(小さなスペースで黙々と靴をつくるジョセフ)

 

約束の納品日。

革職人の小椋さんと製品チェックをしに、小さな靴屋さんを訪れました。

 

おー、これは!

 

50枚中、約3分の1が「失敗」。

縫い目が曲がり、合皮部分をはみ出てサイザルだけを縫っていたり、両サイドでステッチの目が表裏反対だったり、返し縫いの意味をなさないほどにズレていたり。

 

ミシンを扱う技術は確かで、経験で身につけた感覚でズンズンと縫えてしまう彼にとっては、こんな細かいところを指摘されるのは初めてのようでした。

 

日本では、職人でなくとも「まっすぐ」とか「きちんと」みたいな感覚がどうも染み込んでいるようで、まっすぐといえばビシッときれいな直線。それに美しさを感じたりします。

しかしケニアでは、多少ジグザグでも縫い目がズレていても別に構わなくて、それはそれで、この土地では問題なく機能したりします。

 

とはいえ、販売は日本。

「まっすぐ縫う」「はみでない」ということが重要であることも、彼に理解してもらわねばなりません。

 

これは日本の価値観の押しつけなのかな…。いや、「いいモノをつくる」という思いは世界共通だよな…。そう、これも使い手を思う心づかいなんだよね。

 

1週間後、ジョセフは少し緊張した面持ちで、やり直しとなったマットを見せてくれました。

 

きれい。申し分なし。

 

めったに笑顔を見せないシャイな彼も、ホッとしたような表情を浮かべました。

 

これならブックカバーもお願いできる。

しかしこれまた、私たちがホッとできないことが起ころうとは露知らず…。(つづく)

 

(生産担当:マリナ)