ケニアをバイクで走り抜ける ~サイザルゲット珍道中 in キトゥイ~
この数か月、ブックカバー用のサイザル糸の入手先を増やすため、マチャコスからさらに東へ100キロほどのところにある、キトゥイという地域を訪問してきました。
しかし、撚り糸作りを委託しているグループがある場所は、乗り合いバスとバイクタクシーを乗り継いでいくため効率が悪く、時間もお金もかかります。
そこで今回思い切ってバイクを1台レンタル。街のトゥクトゥクドライバー、マステキに運転をお願いし、往復250キロの旅へと出発しました。
マチャコスから離れるにつれて広がる段々畑や草木は、雨期のケニアに青々とした色彩をもたらし、仕事だけど気分はツーリング。テンションがあがる~!!
…はずでした。
「ギャーッ! マステキ! 気をつけて! 車が来る! 曲がる~! ああ~落ちる~! ああー、キエー!」
「うるさ~い!!!! 大丈夫だってば、安心せい!」
180㎝以上あるマステキのデカい体にしがみついてギャースカ騒ぐ私と、その後ろで余裕の笑顔で座る、素材担当ケントン。
カーブを切るたびに、つぶれたサンドイッチのトマトのように落ちそうな私は、そもそも人生でバイクに乗ったことすらほとんどないのに、3人乗りでかつ100キロ近いスピードで走るなんぞ、もう生きた心地がしない。
首を少し左に曲げていないとお互いのヘルメットがぶつかってきちんと座れず、そのやたら大きいヘルメットは振動で前にずれ落ち、直そうと顔を上げれば風に煽られグンッと頭を後ろに持っていかれる。そのたびに、ジタバタ、ギャースカ。
私は、一定の角度で首を曲げ、マステキの肩にあごを固定し、カーヴィーダンス並の腰の曲げ具合で必死につかまりながら、天に命を預け、全身硬直状態でスリリングな片道1時間半を何とか乗り切りました。
キトゥイに着くと、岩を切り開いたような道々を上がり、1つ目のグループに到着。遅れまいと飛ばしてやってきたのに、グループのメンバーは誰一人としていない…。
30分後、ノコノコとサイザルの撚り糸を持ってくる女性たちとあいさつを交わし、適切な質のものを購入。時間がない、さあ、2つ目のグループへ。
これといった道しるべもない道なき道をいくと、小さなお店がポツンと現れました。これこそが、2つ目のグループ。
ところがこのグループは、期待したサイザル糸が準備できておらず、残念ながら買取もできずに撤収。
お昼ごはんをとる時間もなく、その小さなお店でマンダジ(ケニア風揚げパン)を購入し、3人でかじりながら、期待を込めて最後のグループへと向かいました。
バイクはブンブンと音を立て、急な山道を登っていきます。通る人は、男二人に挟まれてヘルメットをかぶったおかしな外国人を横目で見ては、何事もなかったかのようにまた歩き出します。
牛のおしりをたたきながら、破れたシャツに先の割れたサンダルで、毎日この山道をゆく。庭先でヤギの家族が団らんし、裏庭ではロバがつながれ、ニワトリが闊歩する。
これが暮らしなんだなあ…。ね、ケント…、ケントン?
「何だって? よく聞こえないよ、寝てた。」
寝てた??
この道の、この運転で寝れるの?
まあ、いいや…。
昼寝も終えた頃、最後のグループに到着。
飛ばしまくったマステキのおかげで30分を巻き返すも、これまた人がいない…。
とはいえここまで来るのも大変だろうとヤギと遊んで待っていると、サイザル糸を持ってくる女性が。
年の頃、70代でしょうか。
前歯のない笑顔もかわいらしいその女性は、作ってきた撚り糸を私に見せてくれました。
良質とまではまだ言えないものでしたが、サンプルと比較して改善ポイントを話すと、彼女は英語を理解し、私の声に熱心に耳を傾けていました。工房も大変な状態で、質が悪いものを買うことは難しい、お互い協力していいものを作っていきたいと話すと、うんうんと頷いていました。
彼女の笑顔に、怖い思いをしながら来た甲斐があった…、と思ったのも束の間、陽が落ちる時間が近づき、私たちは帰路へと就きました。
夜7時を回った街灯のない道は、まるで夜の海中のようにほとんど何も見えません。
バイクのヘッドライトと冷えてきた夜空に散りばめられた星たちが、唯一の灯り。
広い背中に後ろから抱きつきながら、星の降る夜のツーリング…。
ちっ、何でマステキなのよ…。
「マリ~ナ~、疲れたでしょ~、寝てていいからね~。」
昼間のスリルをはるかに超える、夜の3人乗り100キロ越え。
怖くて寝れるかっ!
疲れ切って家に着いた私は、緊張で固まった体をほぐす力もなく、そのままベッドにダイブ。
命あってよかったけれど、キトゥイ往復バイクの旅は、あー、キットゥーイ!
(生産担当:マリナ)